「良い子」の苦悩  2011年 6月



セラピストや看護士、警察官や消防隊員など、人を助ける職業の人が、陥り易い病があります。周りの人を助けるのは上手でも、自分の苦痛に気づいたり、助けを受けたりすることが苦手という病です。ストレスがたまりすぎて、 病気が悪化したり、虐待関係に陥り易かったり、苦痛から逃れようとアルコールやドラッグに溺れる人もいます。この人達は、幼少期に、子どもとして十分甘えられなかった「よい子」が多いのです。

 

The Drama of the Gifted Childby Alice Miller1979)は、子ども達が生延びる為のサバイバルスキルとして、自分の気持ちを押し殺し、他の人の面倒を見ることを優先するようになるのかを、解り易く描いている本です。彼女の言う《gifted child》というのは、恵まれた子どもではなく、薬物・アルコール中毒や、鬱などの病気で、子どもの世話をできない親の子どもを指しているのです。彼等は自分がしっかりしなければ、と思い親の世話をしはじめます。それは、生き延びる為に彼等が仕方なくしたのであって、選択したのではありません。親が頼まなくても、身の回りの世話をしたり、他の兄弟姉妹の面倒を見たり、セラピストのように、愚痴や悩みを聞いたりするのです。でも、その彼等の辛い気持ちは、誰が受け止めてくれるのでしょう?

 

兄弟姉妹の中でも、全ての子どもが、こういう役割を担うのではなく、年長の子どもだったり、末っ子が引き受けることもあります。その子は「よい子」として、周りにも親にも認められ、その行為に熟練してゆきます。そして、周りが何を必要としているのかには敏感になっても、自分が何をしたいか、して欲しいのかは解らない大人になってゆくのです。 周りの人たちは、別に頼んだわけでもないので、彼等は好きでやっているのだと思い、感謝もしないことすらあります。報われない彼等の怒りは、やがて「自分の人生は何だったのか」というやり場のない悲しみに変わってゆきます。

 

そうした彼等の、親でなくても、親類や近所の人、先生など、他の大人が、頑張っている「よい子」に、「頑張っていて偉いね。でも、あなたも辛いし、苦しいよね。解るよ。時には弱音を吐いても、我が儘を言ってもいいんだよ。いつでも聞くからね」と言って抱きしめれば、その子の心のダメージは、緩和されていきます。大人になってからでも、変ることは可能ですが、時間がかかります。苦しみは長引くのです。あなたの周りの「よい子」は、何故、自分の気持ちを押し殺しているのでしょうか? 話を聞いてあげて下さい。もし、あなたの子どもが、あなたの為に「よい子」にならざるを得ない状況にあるのならば、子どもの為にも、是非セラピーを受ける等、状況を変えるためのサポートを受け入れて下さい。