フロイト(Freud,S)と共に心理学の巨匠として有名なユング(Jung, C. G)は、人が外界との関わりにおいて その環境に応じて無意識的に形成する一定の態度を、ギリシャ古典劇の仮面になぞらえて、ペルソナ(Persona)とよんだ。昔は多重人格症(Multiple Personality Disorder)、現在は解離性同一性障害(Dissociative Personality Disorder)と呼ばれる障害のように自我がそれと同一化し、使い分けている自覚がなくなってしまわない限り、社会生活にとって必要かつ有用な機能である。
これは多様な社会に合わせて生きてゆく為のサパイバルスキルの一つであり、大多数の子どもは、成長する過程で自分の接する状況の複雑さにあわせて、このペルソナを形成、使い分ける術を少しずつ習得していく。「こういう時には、こうした方が上手くいく」と、周りの大人がペルソナを使い分ける態度を観察したり、また直接教えられたりしながら、試行、失敗を繰り返しながらも、自分のペルソナを増やしてゆく。しかし、これを上手く活用しない、若しくはできない子どももいる。
仮面を取り替えるように、態度だけではなく、言うことを変え、嘘を言う大人を見て、ああいう風にはなりたくない、と反感を抱く子どももいる。 相手が驚き、うろたえる反応を期待し、時と場所を選ばずに、わざと言いにくいことを言う青少年もいる。こういう反抗的な態度、ペルソナを意識的に使わない態度は成長するにつれて減少していくことが多い。しかしそれとは違い、生まれつき、相手の感情や、周囲の状況から求められていることを読み解くのが苦手なアスペルガー障害(Asperger Syndrome: 以下、略してAS)の場合もある。
ペルソナを利用するには、それぞれの環境にあわせて、状況や相手が自分に何を求めているのかわからなくてはできない。ASの子ども、そしておとなは、殆どの場合がわざとペルソナを使わないのではなく、使い分けられないのだ。はっきりとは口にだして要求されなくても、他の人ならば暗黙の了解をえる寄りどころになるためのシグナルや、ボディーランゲージをキャッチするのが苦手なため、年齢に見合わず、バカ正直にも、KY(空気読めない)なことばかりを言ってしまうのも、この特質に由来することが多い。相手の反感をわざと引き起こそうとする前者の場合とはちがい、周りと溶け込みたいのに上手くいかず、そして人一倍、自分のネガティブな気持ちには敏感なASの人達は対人関係に自信をなくし、落ち込んでいく。あなたの周りにも、ASを診断されないまま大人になり、人との交流を渇望しているのに上手くいかずに寂しく過ごす人がいるかもしれない。大人になってからでも対処法や、改善する方法はあり、ましてや子どもの頃に早めに発見、治療されればASと併発しやすい孤立、ウツなどを防ぐことも可能だ。誰もが ペルソナに呑まれることなく、 心地よく活用する道はある。一人で悩んでいないで、周りの人や専門家に相談してみてはどうだろうか。