家庭内の言葉の暴力とその影響         2011年3月



家庭内暴力というと、殴ったり、けったりを思い浮かべ、「私とは関係ない」と思う方も多いでしょう。しかし、実際に自分が殴られていなくても、他の人が殴られているのを見たり、言葉の暴力をうけたりして育つと、その影響は、実際に殴られて育ったのと、大きく変わりません。最近の研究成果では、 身体と心の痛みは、 脳の同じ部位に、記憶として保存されることがわかっています。心が傷つく、というのは、身体が傷つくのと同じように痛むのです。そして、その痛みは心の育成に、大きく影響します。

 

私のクライアント、Jさん(仮名)は、謝る事、また、人と話し合って、問題を解決するのがとても苦手でした。普段は、愛想が良く、周りがぱっと明るくなるような人ですが、少しでも相手が自分に反感を持っている、と感じると、必要以上に相手を攻撃し、酷いことを言います。後から後悔しますが、その時は自分を止められません。私生活では、パートナーに言葉の暴力をふるい、職場では、同僚とのイザコザが重なり、仕事を失いました。セラピーを始めてみると、Jさんの生い立ちが、過剰な反応に深く関わっている事がわかりました。

 

Jさんの父はとても厳しい人で、口答えをされると、自分の妻や、子どもに容赦なく手を挙げていました。4人兄弟の末っ子だったJさんは、兄弟や母親が大声でけなされたり、殴られるのを見て、びくびくして育ちました。決して父親を怒らせないように注意していたJさんは、直接殴られ、怒鳴られる事はありませんでしたが、怒りを適切に表現し、話し合いで問題解決することを、家庭で経験した事も、見た事もありません。Jさんが学んだのは、少しでも早く、より口汚く罵れ、相手をねじ伏せる力が強いほうが主張を通せることでした。

 

人によっては、自分の親のようにはなるまい、と努力して自分の行動を変える人もいます。しかし、多くの子どもは、生まれ育った環境を「こういうものだ」と受け止める傾向があります。 Jさんも、自然に自分の父のように振る舞うようになってしまっていたのです。セラピーの過程で、その事に気付き、トラウマを治療する事で、だいぶ穏やかになり、パートナーとの関係も改善しました。

 

子どもに直接言っていない、という言い訳をして、言葉の暴力を実行してはいませんか?「本当になにをやっても駄目だ」「おまえさえいなければ」等、相手の存在を否定する言葉も暴力です。完璧な人間はいませんから、そう思ってしまう時もあるでしょう。でも、それを言わないでいられるように、心のメンテナンスをしましょう。ストレスが溜まっていたり、疲れていたりすると、つい言葉のコントロールが利かなくなりがちです。休息をとる、ストレス解消を積極的にする、気分転換をして、ポジティブ思考に切り替える、セラピーに行く等して、自分と、周りの人の為に、言葉の暴力がない環境を整えましょう。