前回につづいて、トラウマ治療のEMDRについてお話します。EMDRとは、Eye Movement, Desensitization and Reprocessing の略です。80年代後半、Dr. Francine Shapiro によって開発された治療法で、現在、世界中で活用、研究されています。最近では、コンバットトラウマや、災害被害者だけではなく、もっと広い範囲で色んな人達に効果的だとわかってきました。そこで、PTSDになるような大きなトラウマではなく、 Disturbing Live Experiments の影響による、現在の生活の中の支障への治療法、という形に移行しています。
Disturbing Life Experiencesって何?
誰でも体験するような、小さい頃におこった些細な事が、意外な形で影響していたりします。その原因がDisturbing Life Experiences (以前は比較的小さなトラウマ、という意味でsmall t と呼ばれていました)と言われています。Dr. Shapiro の初期の本、"EMDR: The Breakthrough Therapy for Overcoming Anxiety, Stress, and Trauma"の中でも紹介されていますが、仕事もできて、とても素敵な男性なのに、せっかくの昇進の話も、女性からのデートの誘いも自分から断ってしまい、自己嫌悪に陥っていました。彼にEMDRを施行してみたところ、以外な子どもの頃の記憶がよみがえってきました。それは彼が5歳の時、大好きなボールを追って、階段を踏み外しそうになった時に、母親が「危ない!」と大声で止めた時のことです。それ自体は日常の一コマであり、彼の母親は子どもが階段から転がり落ちるのを止めるために、非常に正しいことをしたわけですが、子どもの彼の脳には、「好きなものを追っていくのは危ない」と記憶されてしまったわけです。彼自身も忘れていたその関係づけが、自分が望んでいることを遠ざけていたのです。EMDRを使って、5歳の彼には 理解できなかったけれど、現在のおとなとしての正しい関係づけにもどすことができるのです。セラピストが次の週のセッションに会った時には、彼は昇進を受け入れ、魅力的な女性とのデートの約束に胸をときめかせていました。
私のクライアントも同じような経験をした人が多くいます。普通のカウンセリングでは長くかかるDisturbing Life Experiencesの発見、その影響への治療が、EMDRでは非常に早いペースで進みます。人や、状況によって結果はまちまちですが、子ども達は特に早く反応し、EMDRでの治療効果が出やすいようです。それは、おとなとちがって、まだDisturbing Life Experiencesの数が少ないからではないかと推定されています。その影響の呪縛から解き放たれて、その子ども、その人の本来の魅力が発揮されるのをお手伝いするのがEMDRなのです。興味の有る方は、 英語 http://www.emdria.org 日本語 http://www.emdr.jp の学会のウェブサイトもあります。
「どうしてこうなのかしら?」と一人で悩まないで、まずは相談してみて下さい。