February 2011 Archives

フロイト(Freud,S)と共に心理学の巨匠として有名なユング(Jung, C. G)は、人が外界との関わりにおいて その環境に応じて無意識的に形成する一定の態度を、ギリシャ古典劇の仮面になぞらえて、ペルソナ(Persona)とよんだ。昔は多重人格症(Multiple Personality Disorder)、現在は解離性同一性障害(Dissociative Personality Disorder)と呼ばれる障害のように自我がそれと同一化し、使い分けている自覚がなくなってしまわない限り、社会生活にとって必要かつ有用な機能である。

 

これは多様な社会に合わせて生きてゆく為のサパイバルスキルの一つであり、大多数の子どもは、成長する過程で自分の接する状況の複雑さにあわせて、このペルソナを形成、使い分ける術を少しずつ習得していく。「こういう時には、こうした方が上手くいく」と、周りの大人がペルソナを使い分ける態度を観察したり、また直接教えられたりしながら、試行、失敗を繰り返しながらも、自分のペルソナを増やしてゆく。しかし、これを上手く活用しない、若しくはできない子どももいる。

 

仮面を取り替えるように、態度だけではなく、言うことを変え、嘘を言う大人を見て、ああいう風にはなりたくない、と反感を抱く子どももいる。 相手が驚き、うろたえる反応を期待し、時と場所を選ばずに、わざと言いにくいことを言う青少年もいる。こういう反抗的な態度、ペルソナを意識的に使わない態度は成長するにつれて減少していくことが多い。しかしそれとは違い、生まれつき、相手の感情や、周囲の状況から求められていることを読み解くのが苦手なアスペルガー障害(Asperger Syndrome: 以下、略してAS)の場合もある。

 

ペルソナを利用するには、それぞれの環境にあわせて、状況や相手が自分に何を求めているのかわからなくてはできない。ASの子ども、そしておとなは、殆どの場合がわざとペルソナを使わないのではなく、使い分けられないのだ。はっきりとは口にだして要求されなくても、他の人ならば暗黙の了解をえる寄りどころになるためのシグナルや、ボディーランゲージをキャッチするのが苦手なため、年齢に見合わず、バカ正直にも、KY(空気読めない)なことばかりを言ってしまうのも、この特質に由来することが多い。相手の反感をわざと引き起こそうとする前者の場合とはちがい、周りと溶け込みたいのに上手くいかず、そして人一倍、自分のネガティブな気持ちには敏感なASの人達は対人関係に自信をなくし、落ち込んでいく。あなたの周りにも、ASを診断されないまま大人になり、人との交流を渇望しているのに上手くいかずに寂しく過ごす人がいるかもしれない。大人になってからでも対処法や、改善する方法はあり、ましてや子どもの頃に早めに発見、治療されればASと併発しやすい孤立、ウツなどを防ぐことも可能だ。誰もが ペルソナに呑まれることなく、 心地よく活用する道はある。一人で悩んでいないで、周りの人や専門家に相談してみてはどうだろうか。

 


フロイトやユングと並ぶ、現代心理学の巨匠アドラー(Adler, Alfred. 1870~1937)の理論の中に、Birth Order Theory(出生順位論)という説があります。長男、長女、真ん中、末っ子、一人っ子等 、産まれた順番や、その位置自体で、特定の性格に育つという考え方です。 わかりやすいので、雑誌等でも見かけることがあります。私達の日常会話でも「一人っ子だから、わがままなのよ」とか、「長男なのに、しっかりしてない」等の言葉を発していませんか? それは良いことなのでしょうか?

 

結論から言えば、自分の産まれた立場に合わせて、自動的に「しっかりしたお姉さん」になる子どもはいません。周りの大人に「お姉さんなのだから、がまんしなさい!」と言われ、従うことで褒められて、少しずつ自分の弟妹に譲ることを、学んでゆくのです。ですから、本当は、周りの大人の思い込みと期待のほうが、子どもの人格形成に影響を与えているのです。(前出のアドラーの出生順理論は、後の研究によって、生まれた順位よりも、その周りの大人の接し方のほうが、遥かに子どもの人格形成に影響力があるということが立証されました。)全く出生順が関係してないとはいえませんが、それが全てではないのです。

 

「女の子はおしとやかにしなさい」とか「男だから泣くんじゃない」等も同じような影響力があり、素直にしたがう子もいれば、それに反発する子どももいます。あなたもつい、「こうするべき/こうあるべきだ」という思い込みや、期待を言っていませんか?

 

しかし、はっきり口で言われなくても、敏感な子どもは、周りの期待を察知して、自分の意思を押し殺して、その期待に添おうと努力します。そして、「良い子」になり、自分に与えられた役割を演じ続けるうちに、いつの間にか、自分が本当に何をしたいのか、わからなくなってしまいます。私のところにセラピーに来るクライアントにも、そういった「良い子」のまま30代、40代を迎え、自分がこの先、本当はどうしたいのかわからない、と悩むケースが良くあります。周りの期待を読み取れるのは、素晴らしいことです。でも、自分の気持ちがわからなくては、本当の自分の人生がわからなくなってしまいます。

 

私が尊敬している日本臨床心理学の草分け、河合隼雄さんのお母さんは「男の子だって、悲しいときは泣いても良いのよ」と言ってくれたそうです。あれをしちゃ駄目、これをしちゃ駄目、と規制してしまうよりも、あれをしてもいいよ、これもしてもいいよ、という風に、可能性を広げてあげる使い方もあります。あなたにはどんな価値観がありますか?あなたの子どもは、周りの人は、あなたからどの様なメッセージを受け取っているのでしょう?少し立ち止まって、考えてみましょう。